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東京高等裁判所 平成12年(ネ)5283号 判決 2000年11月02日

控訴人兼附帯被控訴人(被告) Y(以下「控訴人」という。)

右訴訟代理人弁護士 三堀清

被控訴人兼附帯控訴人(原告) 森ビル株式会社(以下「被控訴人」という。)

右代表者代表取締役 A

右訴訟代理人弁護士 古賀政治

同 杉原麗

同 鶴巻暁

同 大塚幸太郎

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  本件附帯控訴を棄却する。

三  控訴費用は控訴人の、附帯控訴費用は被控訴人の各負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人の請求を棄却する。

3  附帯控訴棄却

二  被控訴人

1  控訴棄却

(附帯控訴)

2  原判決主文第三項を取り消す。

3  訴訟費用は第一、二審とも控訴人の負担とする。

第二事案の概要

一  本件は、被控訴人が控訴人から賃借し、第三者に転貸している原判決別紙物件目録(一)及び(二)<省略>の建物(本件建物)の賃料について、被控訴人が借地借家法32条に基づき、月額147万円から、平成10年7月1日以降月額89万3,500円への減額を求めた事案である。

控訴人は、本件賃貸借の賃料には、その賃貸借契約締結の経緯等から控訴人に対する所得保障の趣旨が含まれているなどと主張して、借地借家法32条は適用されないと争ったが、原判決をこれを認めず、賃料を月額109万0,600円に減額するのが相当と判断したので、控訴人が不服を申し立てたものである。なお、被控訴人は、附帯控訴として、第一、二審を通じて訴訟費用はすべて控訴人の負担とする旨の裁判を求めた。

二  右のほかの事案の概要は、次のとおり付加するほか、原判決の該当欄記載のとおりであるから、これを引用する。

(控訴人の当審における主張)

1 原判決は、控訴人が原審で主張した本件再開発事業や控訴人による本件建物の取得及び本件賃貸借契約締結に至る経緯に関する特殊事情を無視し、所得保障の趣旨を含み、かつサブリース契約である本件賃貸借に借地借家法32条の適用を認めたが、その判断は誤りである。

2 原判決は、原審での鑑定の結果を採用したが、同鑑定は右のような本件賃貸借契約に至る経緯を全く考慮に入れていないもので採用すべきでなく、証拠の評価を誤ったものである。

第三当裁判所の判断

一  当裁判所も、被控訴人の減額請求は、月額109万0,600円の限度で理由があるものと判断する。その理由は、次に記載するほか、原判決の理由記載と同一であるからこれを引用する。

1  控訴人の当審における主張1について

(一) 控訴人は、本件再開発事業に反対していた控訴人がこれに同意し、権利変換等の結果取得する店舗で自ら飲食店を経営する計画を断念して本件賃貸借契約に応じた経緯からすれば、控訴人としては生活の途として賃料収入を得る以外に選択の余地がなかったものであり、本件賃貸借における賃料には控訴人の所得保障の趣旨が含まれており、借地借家法32条の適用は排除されるべきであると主張する。

しかし、<証拠省略>及び弁論の全趣旨によれば、控訴人は、再開発事業への同意をするにあたってその要求を頑強に主張した結果、同事業を頓挫させられない立場にあった被控訴人がやむなく譲歩して、極めて控訴人に有利な内容で権利変換を受けていること、本件賃貸借契約の締結にあたっても、控訴人は当初から自己使用にはこだわらず、その反面、契約内容についてはその要求を頑強に主張して譲らず、そのため同様に被控訴人が譲歩して、敷金や賃料は高額とされ、控訴人に有利な内容で賃貸借契約が結ばれたこと、本件賃貸借契約では賃料の据置保証、自動的な増額に関する特約はなく、賃料は、2年ごとに公租公課の値上がり状況等を勘案しつつ、当事者双方協議の上更新する旨合意されているにすぎないことがそれぞれ認められる。右の事実からすれば、権利変換や賃貸借の条件が控訴人に有利な内容になったのは、控訴人の所得や生活保障のためとはいえず、賃料の据置保証、自動増額などについての特約のないことを併せて考えても、本件賃貸借における賃料に控訴人の所得保障の趣旨が含まれているとは認められない。

(二) また、控訴人は、本件賃貸借契約が被控訴人による使用を前提としておらず、転貸が自由であることから、いわゆるサブリース契約に該当するとして、借地借家法32条の適用は否定される旨主張している。

しかし、前述のとおり、本件賃貸借における賃料には所得保障の趣旨は認められず、賃料の据置保証や自動増額などに関する特約もないのであるから、いわゆるサブリース契約の範ちゅうに属するとはいえない。賃料保証を特色とするサブリース契約の場合には、その賃料保証は、一般の賃料相場の変動等による賃料増減のリスクを賃借人(転貸人)が負担する、一種の保険を目的とする契約であり、そのリスク負担(賃料保証)に対しては、対価が支払われているものとみることができる。したがって、そのような賃料保証の合意は、借地借家法の規制の対象外のものであって、有効であると解すべきである。しかしながら、本件賃貸借では、単に転貸自由で、被控訴人自らの使用を前提としていないというのみで、賃料保証(一種の保険)の合意やこれに対する対価の支払の事実は認められない。したがって借地借家法32条の適用が排除されるものとは解されない。

以上のとおりであって、控訴人の当審における主張1は認められない。

2  控訴人の当審における主張2について

証拠(甲3、4)及び弁論の全趣旨によれば、本件賃貸借契約の賃料は、東京地方裁判所平成7年(ワ)第22905号建物賃料減額請求事件の判決で、平成7年4月1日以降月額147万円であることが確認され、平成10年12月25日に控訴人の控訴が棄却され(当庁平成9年(ネ)第5956号)、これが確定したことが認められるが、平成7年4月以降も地価の大幅な下落が続いていることは公知の事実であり、本件建物の賃料が近隣の同種賃貸事例における賃料を大幅に上回っていること(原審における鑑定の結果)からしても、被控訴人の本件賃料減額請求は借地借家法32条の要件を満たすものということができる。

そして、原審における鑑定の結果は、積算法や利回り法では相当低額な賃料になるのを差額配分法による修正を施すことにより、本件賃貸借契約における従前賃料額決定の際の事情にも配慮して継続賃料を求めており、それぞれの基礎資料の内容や結論を導く過程も相当と認められ、十分に採用できるものである。

したがって、控訴人の当審における主張2も理由がない。

二  被控訴人の附帯控訴について

被控訴人は、原判決が訴訟費用の2分の1を被控訴人の負担としたことを不当というが、本件事案の性質や確認された賃料額、訴訟費用の大部分をなす原審での鑑定の意義、必要性等諸般の事情を考慮すると、当裁判所も、原判決が原審における訴訟費用を2分して、その1を被控訴人の負担としたのは相当と考える。

三  以上のとおり、被控訴人の賃料減額請求を月額109万0,600円の限度で認容した原判決は相当であって、本件控訴は理由がなく、原審での訴訟費用の2分の1を被控訴人の負担とした点でも原判決は相当であって、被控訴人の附帯控訴も理由がない。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 淺生重機 裁判官 西島幸夫 江口とし子)

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